オーストリア映画・ドラマにみるリアルなコーヒーハウス文化 ～歴史と伝統が息づく交流の場～
海外の映画やドラマを見ていると、登場人物たちがカフェで語り合うシーンによく出会います。それぞれの国や地域で、カフェは単なる飲み物を飲む場所ではなく、人々の暮らしや文化に深く根ざした特別な空間であることが伝わってきます。
特に印象的なのが、オーストリア、とりわけウィーンの「コーヒーハウス」です。ウィーンのコーヒーハウスは、フランスのカフェやイタリアのバールとは一線を画す、独自の文化を育んできました。今回は、人気作品を通じて、このウィーンのコーヒーハウス文化に触れてみましょう。
『ビフォア・サンライズ』に描かれたウィーンのコーヒーハウス
オーストリアのウィーンを舞台にした映画『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』（1995年）では、主人公のジェシーとセリーヌが、ウィーンの街を歩きながら様々なコーヒーハウスに立ち寄り、語り合うシーンが数多く描かれています。
作中で彼らが訪れるコーヒーハウスは、それぞれ異なる雰囲気を持っていますが、共通しているのは、人々がゆったりと時間を過ごし、会話や思索にふける姿です。席に着いて、コーヒーを片手に長時間話し込んだり、窓の外を眺めたり、新聞を読んだり。彼らがコーヒーハウスで過ごす時間は、二人の関係が深まっていく過程において非常に重要な役割を果たしています。
この映画から伝わってくるのは、ウィーンのコーヒーハウスが単なる「喫茶店」ではなく、人々の生活に深く溶け込んだ社交や文化の発信地としての側面です。
ウィーンのコーヒーハウス文化とは？
ウィーンのコーヒーハウスは、長い歴史を持つ独自の文化空間です。その起源はトルコとの関連も指摘されており、17世紀末にはウィーンに広まったとされています。かつては文人、芸術家、知識人たちが集まり、議論を交わしたり、作品を生み出したりするサロンのような役割を果たしていました。作曲家のモーツァルトやベートーヴェン、精神分析学者のフロイトなども常連だったと言われています。
このウィーンのコーヒーハウス文化は、その歴史的、文化的価値が認められ、2011年にはユネスコの無形文化遺産に登録されました。これは、「コーヒーハウスとは、コーヒーを提供するだけでなく、そこで時間を過ごすための空間を顧客に提供する場所である」という説明と共に登録されています。
コーヒーハウスには、以下のような特徴があります。
- 新聞の種類が豊富: 店内に多数の新聞が用意されており、自由に読むことができます。
- 長時間滞在が歓迎される: コーヒー一杯で何時間でも過ごすことができます。店員（オーバー）は急かすことなく、客がくつろげるように配慮します。
- 独特の内装: 華麗な装飾が施された伝統的な空間が多いです。
- 多様な客層: 地元の人々だけでなく、観光客、ビジネスマン、学生など、様々な人々が思い思いの時間を過ごしています。
メニューも豊富で、様々な種類のコーヒー（「メランジェ」と呼ばれるミルクコーヒーや、ホイップクリームが乗った「アインシュペナー」など）に加え、ウィーン菓子（ザッハトルテやアプフェルシュトゥルーデルなど）や軽食も楽しむことができます。
コーヒーハウスでのリアルな過ごし方と旅行のヒント
映画のようにウィーンのコーヒーハウスでリアルな体験をしたい場合、いくつか知っておくと良い点があります。
- 注文: 席に着くと、ウェイター（オーバー）がメニューを持ってきてくれます。ウィーンのコーヒーは種類が多いので、事前に少し調べておくと選びやすいかもしれません。
- 過ごし方: 焦る必要はありません。コーヒーを味わいながら、新聞を読んだり、本を読んだり、ただぼんやりと過ごしたり。知人とおしゃべりを楽しむのも良いでしょう。一人で訪れる人も多いので、気兼ねなく利用できます。
- チップ: オーストリアではチップの習慣があります。サービスに満足した場合、会計時に合計金額の5〜10%程度を上乗せして支払うのが一般的です。ウェイターに直接金額を伝えて支払うか、お釣りの一部をチップとして渡す方法があります。
- 人気のカフェ: 『ビフォア・サンライズ』のロケ地として有名なカフェもいくつかあります。また、カフェ・ツェントラルやカフェ・ラントマンのような伝統的な老舗カフェは非常に有名ですが、予約が必須だったり、混雑していることもあります。少し離れた場所にあるカフェにも足を運んでみると、地元の人々に愛される隠れた名店に出会えるかもしれません。
まとめ
オーストリア、特にウィーンのコーヒーハウスは、単なる飲食施設ではなく、歴史と文化が息づく特別な空間です。映画『ビフォア・サンライズ』のように、コーヒーハウスでの会話やそこで流れる時間を通して、その場の雰囲気や人々の関係性がより深く描かれるのは、コーヒーハウスがウィーンの人々にとって、生活の一部であり、社交や思索、そして癒しの場であるからでしょう。
画面を通してウィーンのコーヒーハウス文化に触れることは、その奥深さを知る入口となります。もし実際にウィーンを訪れる機会があれば、ぜひコーヒーハウスに立ち寄り、映画の登場人物になった気分で、ゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。そこには、画面で見た以上の豊かな異文化体験が待っているはずです。