ベルギー映画・ドラマにみるリアルなフリッツ文化 ~国民食に見る歴史と習慣~
ベルギーのソウルフード、フリッツに隠された文化
ベルギーと聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。美しい中世の街並み、美味しいビール、そしてチョコレートなどが挙げられるかもしれません。しかし、ベルギーの人々にとって、さらに身近で国民的な存在となっているものがあります。それは「フリッツ」、つまりフライドポテトです。
日本のフライドポテトとは一線を画す、ベルギーのフリッツは単なるファストフードではなく、人々の生活に深く根ざした文化そのものです。ベルギーを舞台にした映画やドラマを観ていると、街角の屋台やパブで人々がフリッツを頬張るシーンを目にすることがあります。これらの描写からは、ベルギーの日常や人々の習慣、そしてフリッツが持つ特別な意味が見えてきます。
映画・ドラマに描かれるフリッツの光景
ベルギーの日常を描いた映画やドラマでは、フリッツがしばしば登場人物の生活の一部として自然に描かれます。例えば、仕事終わりに仲間と立ち寄ったパブで、キンと冷えたビールと共に大きなコーンに入ったフリッツをシェアするシーン。あるいは、一人で街を歩きながら、熱々のフリッツを片手に小腹を満たすシーンなどです。
これらのシーンは、フリッツが特別な日のご馳走ではなく、普段の生活に溶け込んだ食べ物であることを示しています。登場人物がフリッツを食べる姿からは、一日の疲れを癒やすひとときであったり、友人との気取らない交流であったり、あるいは単に忙しい中での簡単な食事であったりと、様々な人間模様が垣間見えます。フリッツが、人々の感情や関係性を表現する小道具として機能していることもあるのです。
フリッツ文化の奥深さ:歴史、種類、そして「フリトゥリー」
ベルギーのフリッツは、その歴史と独自の習慣に支えられています。フリッツの起源には諸説ありますが、17世紀後半にベルギーのムーズ川周辺で、凍った川で漁ができない冬の間に、代わりにジャガイモを魚の形に切って揚げて食べたのが始まりという話がよく知られています。貧困層の食料だったジャガイモが、油で揚げることで手軽で美味しい食べ物として広まっていったのです。
ベルギーのフリッツの特徴は、まずその揚げ方にあります。多くの専門店では「二度揚げ」を行い、外はカリッと、中はホクホクの独特の食感を生み出しています。また、使用するジャガイモの種類や、油の種類(伝統的には牛脂)にもこだわりがあります。
そして、フリッツを楽しむ上で欠かせないのが、様々な種類のソースです。定番のマヨネーズの他にも、タルタルソース、アメリカンソース、サムライソース(マヨネーズと唐辛子)、アンドゥラースソース(マヨネーズ、ケチャップ、オニオン)、ピクルスソースなど、数十種類の中から自分の好みに合わせて選ぶのがベルギー流です。これらのソースは、フリッツ専門のテイクアウト店である「フリトゥリー(Friturie)」や「フリットコット(Fritkot)」に豊富に用意されています。
映画やドラマのシーンで、登場人物がフリッツを受け取ってからソースを選んでいる様子や、容器に豪快にソースをかける様子が描かれている場合、それはベルギーのリアルなフリッツ体験そのものと言えるでしょう。
国民食としてのプライドと旅行のヒント
ベルギーにおいて、フリッツは単なる美味しい食べ物以上の意味を持っています。それは国民的なアイデンティティの一部であり、手軽さや庶民性を象徴する存在です。フリッツを販売するフリトゥリーは、街の至る所にあり、地元の人々にとって日常的な立ち寄り場所となっています。中には、その品質や歴史が評価され、文化遺産として保護しようという動きもあるほどです(実際に、フリッツ文化はベルギーのいくつかの地域で無形文化遺産に登録されています)。
もしあなたがベルギーを旅する機会があれば、ぜひ映画やドラマで見たようなフリッツを体験してみてください。街角のフリトゥリーに立ち寄ってみるのがおすすめです。ショーケースには様々なソースが並んでおり、選ぶのに迷うかもしれません。店員におすすめを聞いてみたり、地元の人々が選んでいるソースを参考にしてみるのも良いでしょう。
注文は、欲しい量(S/M/Lなど)とソースを伝えるだけです。アツアツのフリッツをコーンに入れて渡されますので、火傷に注意しながら、ベルギー流にソースをたっぷりつけて味わってみてください。ビールと共に楽しむのも、ベルギーならではの醍醐味です。
まとめ:画面から広がるベルギーの食文化
ベルギー映画やドラマにさりげなく描かれるフリッツは、単なる食事シーンに留まりません。そこには、長い歴史を経て国民食となったフリッツの物語、二度揚げや豊富なソースといった独自の文化、そしてフリッツを囲む人々の日常や絆が詰まっています。
次にベルギーを舞台にした作品を観る機会があれば、ぜひ登場人物がフリッツを食べるシーンに注目してみてください。どのような場所で、誰と、どのように食べているのか。そこに、ベルギーのリアルな食文化や人々の営みを感じ取ることができるはずです。画面を通して、ベルギーの奥深いフリッツ文化への扉を開いてみてはいかがでしょうか。