イギリスドラマにみるアフタヌーンティー文化 ~優雅な習慣に隠された歴史~
イギリスドラマに欠かせないアフタヌーンティーのシーン
人気のあるイギリスの時代劇や現代ドラマを観ていると、登場人物たちが午後のひとときにお茶を飲みながら会話を交わすシーンによく出会います。特に、豪華な邸宅のリビングルームや美しい庭園で、三段のトレイに載せられた様々な軽食と共に楽しむ「アフタヌーンティー」の光景は、イギリス文化の象徴として印象深く描かれています。
例えば、大邸宅に暮らす貴族の生活を描いた『ダウントン・アビー』では、夫人や令嬢たちが午後の応接間に集まり、メイドによって運ばれてきたアフタヌーンティーを楽しみながら、来客との会話や家族内の出来事について語り合う様子が度々登場します。また、現代の王室を描いた『ザ・クラウン』でも、エリザベス女王やその家族が公務の合間にアフタヌーンティーを摂る場面が描かれ、彼らの日常の一部としてこの習慣が根付いていることが示されています。
これらの作品に描かれるアフタヌーンティーのシーンは、単に登場人物がお茶を飲む様子を見せるだけでなく、当時の社会階級や人間関係、そして人々の暮らしのリズムを理解するための重要な手がかりとなります。画面を通して見るその優雅な光景は、どのような歴史を経て生まれ、現代のイギリスではどのように受け継がれているのでしょうか。
アフタヌーンティーはいつ、なぜ始まったのか
アフタヌーンティーの習慣は、19世紀半ばのヴィクトリア朝時代に、第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・ラッセルによって始められたと伝えられています。当時の貴族階級の夕食は夜遅い時間(午後8時頃)にとるのが一般的でした。そのため、昼食と夕食の間の長い空腹を満たすために、公爵夫人は自室で午後4時頃にお茶と軽食(パンとバター、ケーキなど)を摂るようになったそうです。
この習慣が友人たちの間で広まり、次第に午後のお茶会として定着していきました。当初はプライベートな集まりでしたが、やがて社交の場としての意味合いも持つようになります。お茶と共に提供される軽食も、サンドイッチ、スコーン(ジャムとクロテッドクリーム添え)、様々な種類のケーキやペイストリーへと豊かになっていき、現在知られているような「アフタヌーンティーセット」のスタイルが確立されていきました。
アフタヌーンティーが主に貴族階級や富裕層の間で楽しまれていたのに対し、労働者階級の間では「ハイティー」と呼ばれる食事が広まりました。ハイティーは、一日労働を終えた後にとるしっかりとした食事で、肉料理や魚料理、野菜などが供され、ハイバックチェアのある食卓(ハイテーブル)で摂られたことからその名がついたと言われています。ドラマで豪華な三段トレイと共に描かれるのは、一般的にアフタヌーンティーであり、当時の閑雅な生活の一端を映し出しています。
現代のアフタヌーンティーと旅行の参考
かつては限られた階級の習慣だったアフタヌーンティーですが、現代のイギリスではより幅広い層に楽しまれており、特に特別な機会や観光の要素として人気があります。ドラマで見たような優雅な雰囲気を体験したいのであれば、ロンドンの高級ホテルや歴史あるティールームを訪れるのがおすすめです。クラシックな内装のなか、銀食器で提供されるアフタヌーンティーは、まさに画面から飛び出してきたような体験となるでしょう。
現代のアフタヌーンティーは多様化しており、伝統的なスタイルの他に、特定のテーマに沿ったものや、現代風にアレンジされたメニューを提供する場所もあります。提供される三段のトレイには、一般的に下段にサンドイッチ、中段にスコーン(必ずジャムとクロテッドクリームが添えられます)、そして上段にケーキやペイストリーが並べられます。食べ方には特に厳格なマナーはありませんが、一般的には下段から順にいただくのが良いとされています。また、スコーンにはまずクロテッドクリームを塗ってからジャムを重ねる「デボン式」と、その逆の「コーンウォール式」があり、どちらも広く行われています。
イギリス旅行でアフタヌーンティーを体験する際は、人気のある場所は予約が必要な場合が多いので、事前に確認することをおすすめします。また、場所によってはスマートカジュアルなどの服装規定があるため、訪れる場所に合わせた準備が必要です。作品の世界に触れることで、単なる食事以上の、イギリスの歴史や文化を感じる豊かな体験ができるでしょう。
画面の向こうから広がる異文化理解
イギリスドラマに描かれるアフタヌーンティーのシーンは、単なるお茶の時間の描写に留まりません。それは、当時の社会構造、人々の生活スタイル、そして階級による習慣の違いなど、様々な文化的情報を私たちに伝えてくれます。作品を通してアフタヌーンティーという習慣の歴史的背景や意味を知ることで、画面の向こうで繰り広げられる物語への理解がより一層深まるはずです。
映画やドラマは、異文化への扉を開く素晴らしい鍵となります。アフタヌーンティーのように、作品の中で繰り返し登場する習慣や食文化に注目してみることで、教科書だけでは得られないリアルな異文化の一面に触れることができるでしょう。次にイギリスの作品を観る際には、登場人物がお茶を飲むシーンに少し立ち止まり、その背景に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。それはきっと、あなたの異文化入門の旅をさらに豊かなものにしてくれるはずです。