イスラエル映画・ドラマにみるシャバットの食卓 ~安息日に集う家族と料理~
はじめに:映画・ドラマで触れるイスラエルの特別な時間
人気映画やドラマには、その国や地域の文化、人々のリアルな暮らしが色濃く映し出されています。イスラエルを舞台にした作品でも、人々の信仰心や家族の絆が描かれる中で、ある特別な時間が印象的に登場することがあります。それは、ユダヤ教の「シャバット」、安息日です。
金曜日の日没から土曜日の日没まで、多くのユダヤ教徒にとってシャバットは神聖な休息の時間とされています。この時間には特定の労働が禁じられ、家族が集まり、共に祈り、食事をすることが重視されます。映画やドラマでは、このシャバットの食卓が、登場人物たちの関係性や心情を描く上で重要なシーンとして描かれることがあります。
今回は、イスラエルの作品にしばしば登場するシャバットの食卓を通して、ユダヤ教の安息日の習慣、それに伴う食文化、そしてそこに込められた家族や共同体の絆について掘り下げていきます。
作品に描かれるシャバットの食卓の様子
イスラエルを舞台にした映画やドラマの多くで、家族が集まるシーンとしてシャバットの食卓が登場します。例えば、家族の再会、困難な状況での支え合い、あるいは世代間の葛藤などが描かれる際に、温かい食卓が背景や中心となることがあります。
金曜日の日没前、慌ただしく準備が進められ、食卓には白いテーブルクロスがかけられ、キャンドルが灯されます。家族全員が揃い、両親や祖父母が祝福の祈りを捧げ、パンやワインを分け合います。この一連の儀式と、それに続く賑やかな、あるいは静かな食事が、作品の中で登場人物たちの「日常」や「絆」を象徴的に示しているのです。
食卓に並ぶ料理は、家庭によって、また地域の文化によって様々ですが、特別な日がゆえに手間暇かけた伝統的な料理が登場することも少なくありません。これらの料理は、単なる食事としてだけでなく、安息日を祝い、家族が集まるための重要な要素なのです。
シャバットとは何か:安息日の意味
シャバットは、ユダヤ教の教えにおいて、創造主が世界を創造した7日目に休息したことに倣い、人間も週に一度休息すべきであるとされる日です。金曜日の日没に始まり、土曜日の日没に終わります。この時間は、日常の労働や世俗的な活動から離れ、心身を休め、家族や神との関係に意識を向けるための神聖な時間とされています。
トーラー(ユダヤ教の聖書)には、シャバットにしてはならない39種類の労働が記されており、これには火を使うこと(調理を含む)、電気を使うこと、物を運ぶことなどが含まれます。宗教的な家庭ほど、これらの規定を厳格に守ります。
シャバットの食文化:安息日を彩る料理
シャバットにおいて食事は非常に重要な位置を占めます。特に金曜日の夜の食事は盛大に行われ、家族や親戚、友人が集まる大切な機会です。
安息日には火を使う調理が禁じられているため、土曜日の食事は金曜日のうちに準備しておく必要があります。これに対応するため、長時間ゆっくりと加熱する煮込み料理などが発達しました。
- チョレント(Cholent): 最も代表的なシャバットの煮込み料理の一つです。肉、豆、ジャガイモ、大麦などを鍋に入れ、金曜日の午後に火にかけ、土曜日の昼食までじっくりと弱火で煮込みます。地域や家庭によって様々なバリエーションがあります。
- クゲル(Kugel): 麺類やジャガイモを使ったプディングのような料理です。これも事前に準備しておき、シャバット中に温めて食べます。甘いものや塩気のあるものがあります。
- ハラー(Challah): 三つ編みなどの独特な形をした、シャバットのための特別なパンです。金曜日の夜と土曜日の昼食時に食べられます。食事の始まりに、パンへの祝福の祈りが捧げられます。
これらの料理は、安息日の規定を守りながらも、家族が共に温かい食事を楽しむための知恵と工夫から生まれたものです。
食卓を囲む習慣とその意味
シャバットの食卓は、単に食事をする場所以上の意味を持ちます。それは家族が日常の忙しさから離れ、顔を合わせ、語り合う貴重な時間です。
食事の始まりには、ワイン(またはブドウジュース)とハラーパンに対する祝福の祈りが捧げられます。これを「キッドゥーシュ(Kiddush)」と呼びます。父親や家族の長が祈りを唱え、皆でワインとパンを分け合います。
食卓では、その週にあった出来事を話したり、聖書の教えについて話し合ったり、伝統的な歌を歌ったりします。この時間は、家族間のコミュニケーションを深め、子供たちにユダヤ教の伝統や価値観を伝える重要な機会でもあります。
映画やドラマで描かれるこうしたシーンは、現代社会においてもシャバットが家族の絆を強め、アイデンティティを確認するための大切な習慣であることを示唆しています。
現実のイスラエルにおけるシャバット
現代のイスラエルでも、シャバットの過ごし方は人によって異なります。宗教的な家庭では、安息日の規定を厳格に守り、祈りと家族との時間を重視します。一方で、世俗的な家庭では、休息を重視するものの、宗教的な儀式はあまり行わない場合もあります。
エルサレムなどの宗教色が強い地域では、シャバット中は公共交通機関がほぼ停止し、多くの商店やレストランが閉まります。テルアビブなどの世俗的な都市では、一部の公共交通機関が運行したり、開いている店もありますが、街全体の活動は大幅に静かになります。
旅行者がイスラエルを訪れる際には、シャバット中の交通や店舗の営業状況を事前に確認することが重要です。また、もし機会があれば、ユダヤ人家庭に招かれてシャバットの食事に参加することは、その文化を深く理解する素晴らしい体験となるでしょう。ホスピタリティを大切にする文化のため、知人などを通じてそのような機会が得られる可能性もあります。
おわりに:画面の向こうに見る異文化理解
イスラエル映画やドラマに登場するシャバットの食卓は、単なる食事のシーンではありません。それはユダヤ教の歴史と伝統、安息日の神聖さ、そして何よりも家族の深い絆を象徴しています。
作品を通じて、人々が日常の喧騒から離れ、愛する人々と共に食卓を囲み、祈り、語り合う姿を見ることは、私たち自身の「家族」や「休息」に対する考え方を見つめ直すきっかけを与えてくれます。
映画やドラマという「画面」を通して、シャバットという特定の習慣と食文化を知ることは、イスラエルという国、そしてユダヤの文化への理解を深める入り口となるのではないでしょうか。