スペイン映画・ドラマにみる遅い夕食文化 ~なぜその時間に食べる?歴史と習慣~
人気映画やドラマ作品に触れていると、世界には様々な食文化や習慣があることに気づかされます。中でも、スペインの食文化はタパスなどがよく知られていますが、一つ特徴的なのは「夕食の時間帯が遅い」ということです。
多くのスペイン映画やドラマ作品では、登場人物たちが夜遅くに食事を始めるシーンが頻繁に描かれます。日本では考えられないような時間に、家族や友人が集まり、賑やかに食卓を囲む姿に、驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。このスペイン特有の遅い夕食文化には、一体どのような背景があるのでしょうか。
スペイン映画・ドラマに描かれる夕食シーン
スペインを舞台にした映画やドラマでは、様々な夕食のシーンが描かれます。家庭での家族の団欒、友人とのパーティー、そしてレストランでの食事。これらのシーンに共通するのは、食事開始時間の遅さです。
例えば、現代スペインの日常を描いた作品では、子供たちが学校から帰ってきて、午後の軽食(メリエンダ)を済ませた後、遊んだり勉強したりして過ごし、夕食は21時以降になるのが一般的です。大人の世界でも、仕事が終わってからバルでタパスを楽しみ、家に帰ってから本格的な夕食を家族や友人とゆっくり取る、という流れがよく見られます。ドラマ『グラン・ホテル』のような歴史ものを見ても、当時の貴族階級の生活の中で食事時間が描かれますが、日没後、比較的遅い時間にゆっくりと食事を楽しむ様子がうかがえます。
これらの描写からは、スペインにおける夕食が単にお腹を満たすだけでなく、一日を締めくくり、大切な人々と語らい、絆を深めるための、長く、重要な時間であることが伝わってきます。
なぜスペインの夕食は遅いのか?歴史的・文化的な背景
スペインの夕食時間が遅い背景には、いくつかの要因が考えられます。
一つは、歴史的にスペインの生活リズムが日本のそれとは異なるという点です。スペインは、地理的にはイギリスやポルトガルと同じグリニッジ標準時(GMT)に近い位置にありますが、標準時は中央ヨーロッパ時間(CET、GMT+1)を採用しています。これは第二次世界大戦中にフランシスコ・フランコ総統がドイツに合わせて時間を変更したことに由来すると言われています。この時間帯のずれが、実際の太陽の動きや体内時計と公式の時間との間にズレを生じさせ、結果として活動時間全体が後にずれる一因となっていると考えられます。
また、シエスタ(Siesta)の習慣も関連しています。暑い午後の時間帯に休憩や昼寝を取るシエスタがあるため、昼食(コミーダ)は遅めの時間(14時から16時頃)にしっかりと取られます。そして、シエスタ後の活動を経て、夕食までの間にはタパスやメリエンダなどの軽食を挟むことが多いため、夕食はさらに遅い時間にならざるを得ない、という側面があります。
さらに、スペインの気候と国民性も影響しています。特に南部の暑い地域では、昼間の暑さを避けて比較的涼しい夜に活動することが習慣となっています。人々は夜遅くまで街に出て、バルやレストランで過ごし、社交を楽しむ文化があります。この活発な夜のライフスタイルが、夕食時間も自然と遅くしていると言えるでしょう。夕食は一日で最もリラックスできる時間であり、家族や友人とのコミュニケーションを重視するスペインの人々にとって、ゆっくりと時間をかけて食事を楽しむことは非常に大切な習慣なのです。
リアルなスペインの夕食と旅行での注意点
現代のスペインでも、この遅い夕食の習慣は根強く残っています。都市部では特にその傾向が強く、レストランが夕食営業を開始するのは20時以降、賑わい始めるのは21時や22時を過ぎてからということも珍しくありません。
家庭での夕食も、家族構成やライフスタイルによって多少異なりますが、子供のいる家庭でも21時頃から、大人のみの家庭では22時頃から始まることも一般的です。タパスは夕食前の軽食であり、夕食は魚料理、肉料理、パエリアなどのメインディッシュを中心に、前菜やサラダ、パンなどをしっかりと食べるのが一般的です。これはバルで気軽に楽しむタパスとは全く異なる、よりフォーマルで時間をかける食事と言えます。
もしスペインを旅行する際には、この遅い夕食文化を理解しておくことが重要です。
- レストランの予約や訪問時間: 日本と同じ感覚で18時や19時にレストランに行くと、まだ開店していなかったり、ガラガラだったりすることがあります。目当てのお店がある場合は、事前に営業時間を調べておくか、思い切ってスペイン式に合わせて遅めの時間に行ってみるのも良い経験になるでしょう。
- スーパーマーケットなどの営業時間: 遅い夕食に合わせて、都市部のスーパーマーケットなどは比較的遅くまで営業していることが多いですが、地域や店舗によって異なります。
- 自身の食事リズム: 旅行中は現地の生活リズムに合わせてみるのも楽しいですが、体調管理も大切です。無理せず、自身のペースで食事を楽しんでください。タパスや軽食を上手に活用するのも一つの方法です。
画面を通じて体験する異文化
スペインの映画やドラマに描かれる遅い夕食の風景は、単なる食事のシーンを超えて、その国の歴史、文化、そして人々の価値観や絆を映し出しています。時間を気にせず、大切な人々とゆっくりと食卓を囲む。そこには、忙しない現代社会において見失いがちな、豊かな時間の過ごし方のヒントがあるのかもしれません。
画面の向こう側に広がるスペインの食卓から、その国のリアルな生活や文化を感じ取ってみるのも、異文化理解への素敵な一歩となるのではないでしょうか。