画面で学ぶ異文化入門

トルコ映画・ドラマにみる甘いお菓子文化 ～バクラヴァとロクムに隠された歴史と習慣～

画面の向こうに見る甘い誘惑：トルコの食文化

映画やドラマを見ていると、その土地ならではの食文化に目を奪われることがあります。特に、異国のスクリーンに映し出される「甘いもの」は、見る者の好奇心をくすぐる存在ではないでしょうか。今回は、トルコの映画やドラマによく登場する、魅惑的な甘いお菓子に焦点を当ててみましょう。

トルコと聞いて思い浮かべるお菓子といえば、シロップをたっぷり含んだバクラヴァや、ぷるぷるとした食感のロクム（ターキッシュデライト）などが挙げられます。これらの甘いお菓子は、単なるデザートとしてだけでなく、トルコの人々の日常生活や歴史、おもてなしの心と深く結びついています。

作品に見るバクラヴァとロクムのシーン

トルコを舞台にした作品では、さまざまな場面で甘いお菓子が登場します。例えば、歴史ドラマでは、オスマン帝国の宮廷で精巧なバクラヴァが振る舞われるシーンや、重要な来客へのおもてなしとして甘いものが供される様子が描かれることがあります。これは、当時の富と洗練の象徴であった甘味がいかに重要視されていたかを示しています。

また、現代を舞台にしたドラマでは、家族や友人が集まる団欒の場にバクラヴァやロクムが並んだり、お祝い事の贈りものとして手渡されたりするシーンが見られます。市場や街角の専門店で、職人がお菓子を作る様子や、人々が楽しそうに選び購入する様子も、トルコの日常風景の一部として描かれることが多いです。

これらのシーンは、甘いお菓子がトルコの人々の生活の中に自然に溶け込み、コミュニケーションや人間関係を円滑にする役割を果たしていることを示唆しています。

バクラヴァとロクム、その歴史と文化的背景

バクラヴァ（Baklava）

何層にも重ねられた薄い生地（フィロ生地）に、砕いたピスタチオやクルミなどを挟み、焼き上げてから熱いシロップをたっぷりとかけて作るバクラヴァ。その起源は古く、オスマン帝国の宮廷で現在の形に近いものが完成したと言われています。特にイスタンブールのトプカプ宮殿では、スルタンがイェニチェリ（常備軍）にバクラヴァを振る舞う「バクラヴァ行進」という習慣があったほど、特別な存在でした。

バクラヴァは非常に甘く、濃厚な味わいが特徴です。一口食べると、生地のサクサク感、ナッツの香ばしさ、そしてシロップの甘さが口いっぱいに広がります。形やサイズ、ナッツの種類も様々で、地域によって特色があります。お祝い事、特にベイラム（宗教的な祝祭）の際には欠かせないお菓子であり、家族や親戚が集まる際に手作りしたり、購入したりして共に味わいます。これは、甘さを分かち合うことが幸福や繁栄を願う行為と結びついているためと考えられています。

ロクム（Lokum / Turkish Delight）

「トルコの喜び」とも訳されるロクムは、デンプンと砂糖を煮詰めて作る、ゼリーのような独特の食感が特徴のお菓子です。バラ水、レモン、ミント、オレンジなどのフレーバーがあり、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、クルミなどが加えられることもあります。表面には粉砂糖やココナッツパウダーがまぶされていることが多いです。

ロクムの歴史も古く、15世紀には既に存在していたとされ、現在の形は18世紀末から19世紀初頭にかけて確立されたと言われています。オスマン帝国時代には、宮廷や富裕層の間で珍重されました。

ロクムは、トルココーヒーを飲む際によく添えられます。濃厚で苦味のあるトルココーヒーと、甘く柔らかなロクムは非常に相性が良いとされています。また、友人やお客様が訪れた際に、お茶やコーヒーと共にロクムを供するのは、伝統的なおもてなしの形の一つです。専門店や市場では量り売りされており、色とりどりのロクムが積み上げられた様子は視覚的にも楽しませてくれます。

現実のトルコで味わう甘い体験

もしトルコを訪れる機会があれば、ぜひこれらの甘いお菓子を体験してみてください。

• 専門店を訪れる: イスタンブールをはじめとするトルコの主要都市には、何世代にもわたってバクラヴァやロクムを作り続けている老舗の専門店があります。店内で職人技を垣間見たり、試食をしながら好みのものを選んだりするのも楽しい時間です。
• カフェで楽しむ: トルコでは、カフェでトルココーヒーやチャイ（紅茶）と共にバクラヴァやロクムを楽しむことができます。地元の人々に交じって、ゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
• 市場やスークを歩く: グランドバザールやスパイスバザールなどの市場では、様々なお菓子が売られています。活気あふれる雰囲気の中で、お土産を探すのも良いでしょう。ただし、量り売りの際は希望の量を明確に伝えることが大切です。
• お土産にする: バクラヴァは日持ちがするものもあり、専用の箱に入れて持ち帰ることができます。ロクムも様々なパッケージで販売されており、旅の思い出を共有するのに最適なお土産となります。

トルコの甘いお菓子は、日本人にとっては非常に甘く感じられるかもしれません。しかし、それは単なる甘さだけでなく、長い歴史の中で培われた技術、そして人々の温かい心や繋がりが込められた味わいです。

まとめ

映画やドラマで何気なく映し出される甘いお菓子は、トルコの豊かな食文化の一端を示すものであり、その背後には深い歴史や人々の温かい習慣が隠されています。バクラヴァ一つをとっても、オスマン帝国時代からの伝統が息づいており、現代でもお祝いやおもてなしの場で重要な役割を果たしています。また、ロクムはトルココーヒーと共に、ゆったりとしたコミュニケーションの時間に寄り添います。

このように、画面を通じて見たトルコの甘いお菓子に少し目を向けるだけでも、その国の歴史や文化、そして人々の暮らしぶりについて多くのことを学ぶことができます。次にトルコの作品を見る際には、登場する甘いお菓子に注目してみるのも面白いかもしれません。